色の箱にシールを隠した後、「シールは青色の箱に入っているよ」と伝えます。つまり、子どもに対して嘘をつきます。それを聞いた子どもは、わざわざ嘘をつかれているとは思わず、その言葉通りに青色の箱を開けます。もちろんシールは入っていません。見つけられなかったので、実験者は子どもの目の前で赤色の箱を開けてシールを取り出し、シールを没収します。子どもの目の前でシールを取り出すことで、子どもにも嘘をついていたことを明らかにした後、実験者はまた子どもからは見えないようにシールを隠します。今度は青色の箱に隠して「シールは赤色の箱に入っているよ」と嘘をつきます。子どもはどちらを探すでしょうか。また、あなたがこの子どもの立場だったらどちらの箱を探しますか。 この実験では繰り返し8回、「シールが入っていると実験者に教えられた箱にはシールが入っていない」という嘘をつかれる経験を子どもに与えました。その結果、3歳児は8回中で平均6回以上、実験者に教えられた箱を選びました。つまり8回繰り返し嘘をついた相手に6回以上騙され続けました。この結果から、Jaswal et al. (2010) は 3歳児には人の言っていることを鵜呑みにし、何度騙されても信じてしまう過信傾向があると結論づけました。しかし、子どもが実験者に教えられた箱を開ける理由として考えられるのは、「教えられた箱に入っていると信じているから」だけではありません。先に述べたように、人の目を気にして、信じたふりをしてくれていることが考えられます。教えられた箱とは違う箱を開けると、目の前の実験者に助言を無視したと思われたり、逆らったと思われたりして、礼儀正しくない子、言うことを聞かない子などとみなされてしまうかもしれません。そのような事態を避けるために、子どもが敢えてシールが入っていないと分かっている箱にシールが入っていると信じているフリをしているという可能性が考えられます。子どもが実際に大人の言うことを信じているのか、それとも信じたフリをしてくれているのかについて調べるための実験を行いました(残華?青山,2020a)。この実験では、実験者が子どもの箱を開ける様子を見ている場面と、見ていない場面を設定しました。Jaswal et al. (2010) の実験のように、実験者が子どものことを見ているのであれば、子どもは実験者にどう思われるかを考えて箱を開ける可能性があります。しかし、実験者が子どものことを見ておらず、実験
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