ここ数年、キャンパスのソメイヨシノも卒業式を祝福してくれるかのように急いで咲き始めてくれていましたが、どうにも今年は間に合わなかったようです。奈良の春は、東大寺のお水取りが終わると確実にやって来てくれましたが、今日の寒さは、春が行ったり来たりしながら、一方、寒さの方もまた、地球温暖化に抵抗するかのように、どちらも頑張ってくれているように感じます。
そのような中、久保三左男 奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站同窓会竹柏会代表理事、松原さおり 同理事のご臨席を賜り、乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站5年度卒業式を挙行できますことを、教職員一同、大変嬉しく思います。
晴れて、奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站を卒業される250名の皆さん、卒業おめでとうございます。あわせて、ご家族やご関係の皆様に、奈良乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站機構理事長、及び全教職員一同、心よりお祝い申し上げます。
皆さんには、「卒業おめでとう」という言葉とともに、あらためて、奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站に入学してくれたことに対し、今ここで「ありがとう」と申し上げたいです。4年前はコロナ禍の真っただ中にあり、入学式が挙行できなかったことへのお詫びも兼ねて。それにもかかわらず、オンラインでの授業、期待していたはずのサークル活動など、多数の制限の中、事情を理解し、本当によく耐え、乗り越えてくれました。「ありがとう！」。
「静寂」という言葉は、古から日本人の美意識と重なって、「しじま」「閑静」といった語とともに、音風景の美しさとしても、長く尊重されてきたものです。しかしながら、コロナ禍において経験した学生の声や笑いがないキャンパスの「静寂」は、文字通り、静かすぎて、あまりにも寂しい風景でありました。
そして今、奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站のキャンパスは、観光客が戻ってきた奈良公園と等しく、昼は活気に溢れ、早朝や深夜はキリリと引き締まった静寂に包まれ、古都奈良にある乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站ならではの環境が蘇ってきました。
音楽において、一つの楽曲は、無音（音のない）の空間の中、最初の一音で始まり、最後の一音の響きが終わることで完結するものと、皆さんも思っていることでしょう。ホールで、演奏中咳ひとつできない緊張感は、経験したことがあると思います。楽譜に書かれた最初の音に始まり、最後の音で曲が終わるという概念は、実は、主に西洋のクラシック音楽についての考え方です。一方、日本の伝統音楽は、最初の一音の前にある空間、「場」の音環境、例えば、木々の葉擦れの音、虫の声、など。そして最後の音が消え去った後におとずれる「余韻」や、再び聞こえてくるその場の音、をも含めて、楽曲とする考え方があります。
静寂と余韻を感じ、味わい、西洋音楽では「雑音」とされる音や許されない「ズレ」もまた「美」の要因として、私たちは日本伝統音楽に親しんできました。
こうしたことは、現在、学校における音楽の授業、特に中学校や高等学校において、音楽の多様性として学習指導の内容となっています。
もう少し、音楽の話をします。
私が小学校や中学校の時代では、「メロディ」「ハーモニー」「リズム」が音楽を形づくる「主要三要素」である、と学びました。一つの音から次の音へ、またその次の音へ、とつながっていく横の流れが「メロディ」です。一つの音に他のいくつかの音を同時に重ね、縦の響きをつくることが「ハーモニー」です。リズムは、メロディやハーモニーを進行させていく上で、それらの間隔に変化を与えるものです。
音楽を構成する要素は、実はこの3つだけはでなく、「強弱」、「テンポ」、「音色」などもあります。また、音と音とが重なることも、ハーモニーという意味だけではなく、メロディとメロディが重なり合って動いていくことを、縦糸と横糸で編まれる織物を表す「テクスチャー」として、これも要素として捉えています。そして、音楽を西洋クラシック音楽から日本の伝統音楽などに広げて捉えると、「静寂」や「余韻」なども重要な要素として加わってくるのです。
こうして出来上がる音楽は、要素の働きによって、美しさ、楽しさ、あるいは悲しみといった「質感」をもたらしていきます。その質感は、「もともと音楽の側にある」という考え方と、「いや、音楽そのものはあくまで客観的なもので、質感は、音楽を演奏したり聴いたりする人間の側に生まれるものだ」という、二つの考え方があります。
さて、本学で学んだ皆さんは、ここまでの話を聞いて、「音楽の仕組みや要素の働きは、社会に存在する様々なモノやコト、そして社会に生きる人を育てること、と共通するところがあるな」と思われたことでしょう。
そうです。人と人とが繋がること（メロディ）、多様な人々と一緒になって「和」を築くこと（ハーモニーやテクスチャー）、様々な活動に変化をつけること（リズム）、スピード感をもって取り組んだり、じっくりと時間をかけて対応したりすること（テンポ）。そして、その結果が周りの人々や社会全体に、幸せや喜びや勇気といった感情の変化をもたらしていくこと（質感）。これらは音楽と共通するところです。
先日、25年にわたって続いている、本学の「学生オペラ」を鑑賞しました。今年は『メリーウィドウ』でした。この学生オペラの特色は、音楽教育専修の学生だけではなく、他専修の学生も一緒になって取り組み、演奏する学生も演奏だけでなく、演出、編曲、照明、衣装、そしてプログラムの製作など、一人何役も担って完成させていることです。また、今年は特に、『メリーウィドウ」の最も有名な旋律を、バイオリンとチェロを弾く奈良女子乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站理乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站と生活環境乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站の学生が担っていたことには本当に心打たれました。こういうところにも、一法人二乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站の協働が見られ、『メリーウィドウ』の美しい旋律と重なって、私は、涙があふれてきました。
本学学生の活躍は、もちろん、学生オペラだけではありません。ESDティーチャーとして認証を受けた皆さん、「奈良市地域に飛び出す学生支援事業」として活躍してくれた皆さん、学長表彰を受けた女子ハンドボール部や書道等で活躍した皆さん、乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站ートや各種プログラムなどで学校や子どもたちの支援に取り組んだ皆さんなど、今日をもって巣立つすべての卒業生において見られました。本当に嬉しいことです。
4月からは、ESDを柱とする本学で、学んだり、在学中に経験したりしたことのすべてを活かし、直接的にも間接的にも、我が国や世界の教育の発展に向けて、努力し活躍していただきたいと切に願います。環境においても社会においても、持続可能性が脅かされている現実を直視すると、いかに次世代を担う子供たちへの教育が重要であるかは、言うに及びません。奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站を卒業し、様々な場で活躍する皆さんは、どうか自信をもって、「持続可能な社会の創り手となる人」を育て、職場や地域の方々とともに、幸せな社会の創造を牽引していってください。
持続可能な社会、それは「人間の尊厳と社会の安全保障」がいつまでも続く社会、と言い換えることができます。その社会を構築していくためには、まだまだ解決しなければならない困難な課題がたくさんあります。コロナで実感した、「人と繋がることの大切さ」や「人と会って話をすることの尊さ」を胸に、「人間の尊厳と社会の安全保障」を築くための「構成要素」を、皆さん一人一人の鋭い感性によって捉え、繋げ、重ね、躍動させ、演奏者や指揮者が音楽を創造していくように、社会を変革する「表現者」となってくれることを期待します。
先日、惜しくもこの世を去った世界的指揮者、小澤征爾さんの業績は、類まれな才能によって音楽文化の発展に貢献したことのみではありません。東洋人であり、日本人である小澤さんが、「自分はなぜ西洋の音楽を演奏するのか」について常に自らに問い続け、クラシック音楽が世界共通の芸術であることを示したこと。そして、音楽家のみならず、一般市民、若者や子供も含め、すべての人々に分け隔てなく接し、音楽の素晴しさや楽しさを伝え続けてきたことです。
皆さんも、様々な道や立場で、自らのアイデンティティについて考え続けてください。それとともに、簡単ではないかもしれませんが、国籍や文化、所属、価値観などの違い、多様性を認め、受け入れていく努力を積み重ねてください。そうすることにより、皆さん自身が「持続可能な社会の創り手」になれるとともに、その努力がやがて実を結び、「持続可能な社会の創り手」が育っていくことができるものと、強く信じます。どうか頑張ってください。
最後になりますが、皆さんやご家族の健康と幸せがいつまでも続くことをお祈りし、また、今後の奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站の発展のために、どうか、ご寄付などのご支援をいただけることをお願い申し上げ、告辞といたします。
乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站6年3月25日
奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站 学長 宮下 俊也
