陶芸における造形表現(美術教育講座 原山健一)
私は陶芸の中でも、器の様な用途を持たない、造形的な作品を制作?研究しています。私が陶芸家だと名乗ると、陶芸の一般的なイメージから「お茶碗とか壺を作っているのですか?」と聞かれることが多く、詳しく説明をすると、「彫刻を作っているのですね」という理解をされます。どうしても、陶芸=器、彫刻=造形作品という言葉のイメージがあるので、造形的な陶芸作品というのは説明が難しいようです。海外でもやはり、私の作品のようなものは「ceramic sculpture(陶芸の彫刻)」と呼ばれます。しかし日本の陶芸界では造形的な作品であっても、一般的に分かりやすい「彫刻」という呼び名はあまり使わず、曖昧さを残した「オブジェ」という呼び方をよく使います。それは、陶芸は彫刻とは異なる考え方で成り立っていて、その違いの部分に、陶芸として表現すべき大切なことがあるという意識が強いからなのでしょう。
『gyle』2016年 作品サイズh60/w55/d40cm
日本の陶芸の歴史は、中国から伝わってきた技術や作風の影響を受けて発展しました。そして日本人はそれを日本的な美的感覚に合わせてアレンジしてきました。奈良に関わりのある例で言うと、正倉院にも収められている奈良三彩、その元となった中国の唐三彩は技巧的で精緻な造形ですが、その影響を受けて作られた奈良三彩は唐三彩とは大きく趣が異なり、シンプルでどこか素朴な形をしています。そのような「日本人好み」の感覚は、桃山時代の茶陶や、大正?昭和の民藝運動で、華美な装飾や、凝った技巧を徹底的に削ぎ落とした、ミニマルで素朴な表現を追求したムーブメントとして顕在化します。
『光庭』2015年 伊村俊見?原山健一展 多治見市美濃焼ミュージアム
陶芸において技巧的な表現を削ぎ落としてゆくと、際立ってくるのは土(陶土)が表す独特の質感です。土が持つ柔らかさや、粘り気からもたらされる質感や形は、陶芸における重要な表現要素の1つです。この陶芸特有の質感は、手で直接土に触れて作品を作り出す陶芸家にとっては、触感として強く意識されます。ロクロを挽く時に柔らかい土が上に伸びてゆく感じや、土を切り糸(ワイヤー)でスパッと切る感じといった、土を扱う際の触感は、そのまま制作のインスピレーションにつながります。
私の制作においても、この「土の性質」そのものがテーマの重要な部分を占めています。そのような成り立ちを考えると、作品の見た目で「彫刻」と呼ぶよりは、その成り立ちを踏まえて「陶芸」と呼ぶ方が、やはりしっくりくるのです。
海外で制作をした際、日本ではあまり見慣れないことですが、ヨーロッパの陶芸家が安全面への配慮からビニール手袋をしながら作品を作るのをしばしば見ました。私も使用を勧められましたが、私はどうしても手で直接土に触れ、触感を感じながら制作をしたく、それを断りました。私はどちらかと言えば伝統的な日本の陶芸からは距離をおいて作品を作ってきたのですが、海外でこのような経験をすると、やはり自分の根底には日本的な陶芸感があることを改めて認識させられます。
陶芸の制作?研究は、他の研究分野と同じように「実践と検証」を繰り返しながら、新たな知見を探す作業です。陶芸における私にとっての実践は「土で形を作る」という、かなり原始的な行為なのですが、時にはそこから国境や時代を越えてゆくような発見があるのが陶芸の面白いところです。
制作風景 2017年 トルコでの滞在制作
奈良教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站 美術教育講座 准教授 原山健一
※この記事は、2021年3月の情報を元に作成されています。
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