不思議な私語の世界(学校教育講座 出口拓彦)

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不思議な私語の世界(学校教育講座 出口拓彦)

今日は,心理学専修の出口研究室を訪問したいと思います。こんにちは!

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こんにちは~!

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早速ですが,先生が研究していることについて教えてください。

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私は「集団場面での規範からの逸脱」について研究しています。例えば,「授業中の私語」はどのようにして起こるのか,ということについて調べています。

「授業中の私語」ですか。なぜ,私語について調べているのですか?

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そうですね...。その質問に答える前に,1つ,なっきょんに質問です。なっきょんは,「授業中の私語」は「してもよいこと」だと思いますか? 「してはだめなこと」だと思いますか? ちなみに,「授業とは何の関係もない私語」のことですよ。とりあえず,「よい」「だめ」の2つから選んでください。

その2つの中からだったら,もちろん,「だめ」を選びます!

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なるほど。これまでの心理学の研究でも,なっきょんと同じように,多くの人たちが「私語はしてはだめ」と考えていることが報告されています。

ふむふむ。

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では,もう1つ質問。なっきょんは,今までに「私語」をしたことはありますか?

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え~とえ~と...。どうだったかな~。

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あはは。これは,ちょっとこの場では答えにくいですよね。でも多分,この質問をすると,ほとんどの人が「したことは...あります」と答えるのではないでしょうか。これまでに行われた数々のアンケート調査でも,多くの人たちが「私語をしたことがある」と回答しているようです。

なるほど~。

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でも,これって,ちょっと不思議だと思いませんか? 「一人ひとりは,私語は『してはだめ』と考えているのに,教室などに集まると『してしまう』」ことになりますよね。これが,私が「私語」について研究をしている理由です。

「周りの人」の影響

では,なぜ,そのようなことが起こるのでしょうか?

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そうですね。いろいろな理由が考えられるかと思いますが,ここでは,「チャルディーニ」という研究者たちが調べている「記述的規範」に注目してみましょう。これは,簡単に言うと,「『ある行動』を自分の周りの人がしているのを見たときに,『ここでは,その行動をしてもいいんだ』とみなすことに基づいた『規範』」のことです。

なるほど。「みんながしているから,大丈夫だろう」みたいな感じですね。

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そうそう,そんな感じです。

でも,さっきは「多くの人たちは,『私語はだめ』と考えている」と話していましたよね。私語についても,「みんながしているから大丈夫」と思ってしまうようなことが,本当に起こるのですか?

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うん,いい質問ですね。では,その質問に関連して,私の方からも質問です。なっきょんは,「教室にいる全ての人の行動を,一瞬で正確に把握する能力」を持っていますか?

え~っ,そんな超能力みたいな力はないですよ~。

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そうですよね。教室に何十人もいる人たち全ての行動を瞬時かつ正確に知ることは,普通の人間なら難しいですよね(...あれ? そういえば,なっきょんは「普通の人間」だったっけ?)。おそらく,自分の周囲に座っている,一部の人たちのことしか分からないですよね。

はい。

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そうすると,これまた不思議なことに,「教室全体では少しの人しか私語をしていないのに,『周りの人』と同じ行動をすることで,教室全体に私語が広がる」ということが,少なくとも理論上は起こりうることが知られています。

えっ,なぜですか?

少数派に「つられる」過程

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話をシンプルにするために,例えば3×3の座席に計9人の生徒が座っている教室を考えてみましょう(図1の「1a」を見てください)。このとき,左上にいる人の座標を(横1,縦1)として,右下を(横3,縦3)と書くことにしましょう。そして,自分の「周りの人」の半分(5割)以上が私語をしたら,自分もつられて私語をしてしまう,ということにしましょう。

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何だか,数学っぽくなってきましたね。

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あはは。そうですね。心理学には数学的な部分もあるのですよ。さてさて,話を戻すと,9人のうち7名は「私語はだめ」と考えていて,2名だけが私語をしているとします。そして,この2名は(横3,縦2)と(横2,縦3)に,それぞれ座っているとします。

そうすると,私語をしている人は,教室全体でみると「9人中2人」で2割ちょっとなので,人数的には少数派になりますよね。

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でも,このときに,教室にいる「生徒」たちが,「自分の周りにいる上下左右に座っている4人」の行動しか知ることができなかったらどうでしょうか。特に,右下の(横3,縦3)の生徒(図1の「1b」参照)は,どのように考えると思いますか?

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え~とえ~と...。この生徒は端に座っているから,自分の前方(上方)と左側の2つの座席にしか「周りの人」はいないはず...ということは...。あっ,2人中2人で,「全員」が私語をしていると考えることになる!

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そうですね。教室全体では2割(9人中2人)しか私語をしている人がいなくても,右下の生徒にとっては,10割(2人中2人),つまり「周りの人」全員が私語をしている,ということになります。

なるほどなるほど。

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では,他のところに座っている生徒は,どうなりますか?

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真ん中の(横2,縦2)の人(図1の「1c」参照)は上下左右の4人の行動を知ることができて,そのうち2名が私語をしているから...,(「周りの人」の)半分以上の人が私語をしていることになります。

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そうですね。他の生徒は?

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右上(横3,縦1)と左下(横1,縦3)の生徒(図1の「1d」参照)も,2人中1人が「私語をしている」ことになります。

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そうすると,「自分の『周りの人』のうち,半分以上が私語をしている」と考える生徒は,全部で4人いることになりますね。

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はい。そして,この4人が「周りにつられて」私語をしてしまうとすると,次は9人中6人(最初の2人+4人)が私語をしている状況になる(図1の「2a」参照),ということで合っていますか?

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そうです。「私語」をしている生徒の方が多くなってしまいましたね。そして,まだ「沈黙」を続けている3人について,もっと見てみると...。

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え~と,(横2,縦1)の生徒(図1の「2b」参照)と(横1,縦2)の生徒は,「自分の『周りの人』3人のうち,半分以上の2人が私語をしている」と考えることになります。

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そうそう! ...で,その次はどうなりますか?

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左上の(横1,縦1)の生徒(図1の「3」参照)は「2人中2人が私語をしている」と考えるから...,あれれ,教室にいる人全員が私語をすることになってしまいました!(図1の「4」参照)

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そうです。最初の時点で私語をしている人は全体の約2割だけで,しかも「周りの半分以上が私語をしたら,自分も私語をする」というルールに従っているのに,教室全体が私語状態になってしまいましたね。

う~ん。不思議!

まとめ

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ここで大切なのは,最初に私語をしていた2人だけではなく,「周りの人が私語をしているから,自分もしてもいいのかな?」という理由で私語をした人も,結果として他の人たちが私語をすることを促してしまった,ということです。これが繰り返されて,教室全体に私語が広がったのですね。

なるほど...。「私語をしている周りの人」の影響を受けて私語をすることで,自分自身も「私語をしている周りの人」の一部になって,他の人たちに影響を与えるようになってしまったのですね。

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なっきょんは理解が早いですね。このように,生徒同士のやりとりが教室全体に及ぼす影響に着目しながら私語(規範からの逸脱)について考える,というのが私の研究内容です。

よくわかりました! でも今回,9人という小さな教室について考えるだけでも大変だったのに,20人とか30人とかの教室だと,ものすごいことになってしまいそうな気が...。

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そうですね。なので,先ほどなっきょんがしてくれたような「計算」は,コンピュータを使って行っています。コンピュータの中に「教室」を作って,生徒同士のやり取りや教室全体の様子を観察していく,という感じです。これは,「コンピュータ?シミュレーション」とよばれている方法の1つです。

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なんだか工乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站みたいですね。「私語」以外の研究はしているのですか?

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その他にはグループ学習に関する研究もしています。あとは,JICA(独立行政法人国際協力機構)関係のプロジェクトで「カンボジアに教育乐竞体育_乐竞体育app下载-官方网站を作ろう」という取り組み(/general/post_61.html)があるのですが,これに教育心理学関係科目の担当者として参加しています。

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わあ,いろいろなことを研究されているのですね。出口研究室のゼミ生も,同じような研究をしているのですか?

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ゼミ生は,私とはぜんぜん違う研究をしていますね(笑)。「学級開き」とか,「ストレス」とか,「サークル」とか,いろいろです。興味がある人は,出口研究室のサイト(http://mailsrv.nara-edu.ac.jp/~deguchi/semi_ron.htm)を見てみてもらえると嬉しいです。

あはは。最後にさりげなく研究室の宣伝をしていますね。今日は,いろいろとどうもありがとうございました。

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こちらこそ,どうもありがとうございました。最後に1つだけ。くれぐれも,授業の妨げになるような私語はしないように気をつけてくださいね。

は~い! わかりました~!

学校教育講座 教授 出口拓彦

※この記事は、2021年5月の情報を元に作成されています。

 記事をお読みいただきありがとうございました!ぜひなっきょんナレッジに関するアンケートにもご協力ください。

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カテゴリ   :   研究コラム
最終更新 : 2022-02-28 16:58